見出し画像

災害からの復興に欠かせない「共助」と地域のレジリエンス

能登半島地震からもうすぐ1年。災害の発生直後は被災地の動きに注目が集まりますが、月日が経つと私たちの意識は薄れてしまいがちです。しかし、復興までの道のりは長く、考えるべき問題もさまざまです。いつどこで起こるか分からない災害に対し、私たちが身につけるべき行動とは。


被災地の暮らしを「元に戻すこと」の意味

災害が起きて被災地の暮らしが元に戻るまで、大きく3つのフェーズがあります。発災から72時間は人の生死に関わる対応をする「応急」フェーズ、1週間後から1ヶ月までは日常のインフラを戻す「復旧」フェーズに入ります。その後の「復興」フェーズは、災害の規模によりますが、数年から数十年もかかる場合があります。

京都大学防災研究所が作成した「生活復興カレンダー」(※1)は、阪神淡路大震災の被災者が「復興」を実感できた時期を調べ、時系列でまとめています。多くの被災者は地震発生から3週間ほどで「もう安全だと思った」と回答。一方で「地域の経済が震災の影響を脱した」という実感は、10年後の2005年にようやく過半数を超えたという結果に。この調査からも「生活が元に戻った」と本当に実感できるには、とても長い年月がかかることが分かります。

三菱総合研究所 社会インフラ事業本部の古市佐絵子さんは、復興フェーズで特に重要なのは、「地域全体でどのように元に戻すのか?」というビジョンを持つことだと話します。

「元に戻すと言っても、同じ場所に同じように家を建て直せばいいというわけにいきません。そもそも日本の多くの地域は過疎化が進み、現状の暮らしを維持するのも難しくなっています。そうした課題を考慮せず、ただ元に戻そうとしても、それは持続可能なのか?という疑問が浮かび上がります。また、被害が大きく元の場所に住めない場合は、新たな土地に溶けこんで、いっしょに暮らしや経済をつくっていけるだろうか?といった心配も出てきます」

復興フェーズに大切な「共助」のスイッチ

長くて複雑な問題をたくさん抱える復興フェーズ。そこで大きな役割を果たすのが「共助」、地域内外のコミュニティや企業による助け合いです。発災直後の人命救助やライフライン復旧には国と自治体の力が重要ですが、平時に近づくほど、企業や団体の出番が増えてきます。例えば、公的な支援でカバーしきれない部分や、被災者の心のケアをする取り組みなどが考えられます。能登半島地震でも、コメダ珈琲が避難所にキッチンカーを派遣し、温かいコーヒーを振るまったことが話題になりました。
 
「なかなか行き届かない被災者の暮らしの豊かさの部分を、民間企業が担ったケースです。命に関わることでなくても、日常を彩るものやホッとできるものがあることは大切一人ひとりが前を向き、次に進むための原動力になります。暮らしを元に戻すことだけでなく、新しいビジネスモデルを考えるとか、可能性のある分野に投資をするなど、地域を発展させるプラスアルファの取り組みに民間のアイデアや技術が求められていると思います」(古市さん)
 
元に戻すだけでなく、「もっとこうしたい」という気持ちに寄り添う。地域をより良くしようという想いが集まり、お互いができることを認識し合える場づくりこそ、理想的な「共助」が生まれるきっかけになるかもしれません。

共助を形づくる、一人ひとりの「レジリエンス」

地域や企業、私たち個人ができることを持ち寄り、つながり、支え合う。それぞれがプレーヤーになっていく時に必要なのが「レジリエンス」、元に戻すことができる力、立ち直る力です。目の前の課題に向き合い、乗り越えていくスキルとも言えそうです。

レジリエンスは、対処・適応・変革の3つの能力に分類されます。対処は、経験や備えにより被害を回避、軽減する力。適応は、他の人と協力し助けを求める、身の回りのリソースを使って対応する力を指します。変革はさらに進み、より良い将来に向かって行動する力です。自分だけで状況を変えるのが難しい時に、人を束ねてアクションを起こしていく力でもあります。災害や防災は避難や備蓄などの「対処」がテーマになりがちですが、復興フェーズでは「適応」と「変革」に意識を向けることが重要です。

三菱総合研究所は、企業や自治体と連携して生活者のレジリエンスを高める取り組み、レジリエントライフプロジェクトに参画しています。レジリエンスをさまざまな観点で調査・研究し、それを伝える活動を行っています。2024年5月に多摩市で開催した「令和サバイバー養成キャンプ」もその一つ。同じ自治体に暮らす市民が、初めて会った人たちも含め、どう協力し避難生活を過ごせるか。キャンプを通じて学びました。ポイントは、それぞれが自分にできることを見つけること。火おこしや料理、DIYが得意な人もいますし、リーダーシップをとるのに慣れた人もいるでしょう。近くにいるだけで元気と癒しをくれる子どもたち、「みんな、ちゃんと水分取ってね」と声をかけてくれるおばあちゃんも。そこでの貢献の仕方はさまざまです。

全国2,000人のWebモニターを対象に行った調査では、レジリエンスの特性が年代や地域などで異なる傾向が見られました。例えば「自分の力で状況を変える」は若い年代が比較的高く、大きいまちより小さいまちの方がその傾向が強い。一方で「災害や病気に備える」「困難な状況にも動じず前を向く」などは50~60代ほど高いという結果に。

また、レジリエンスは日常の意識や行動で高められる可能性があります。何らかの趣味を持つ人はレジリエンスが高くて、特にスポーツやキャンプ、文化活動などを能動的に行う人にその傾向が強いようです。

「レジリエンスと言っても、みんながムキムキである必要はありません。それぞれが自分の強みと弱み、リスクなどを理解し、できない時は助けを求めることも重要です。上手くいかなければ、いっしょに考える。小さな失敗に気づいたら、すぐ直す。職場や学校でも、得意なことが違う人同士がチームを組む方が上手くいくことってありますよね?レジリエンスの特性は人によって違うからこそ、自分ですべて乗り越えるのではなく、コミュニティの中で補い合うことが大切だと思います」(古市さん)

地域でゆるやかに、やさしくつながる

レジリエンスは防災のためだけでなく、普段づかいできる「立ち直る力」。いつ起こるか分からない災害ですが、私たちが日常で身につけられる行動もありそうです。例えば、周囲に住む人たちやコミュニティとゆるやかにつながる。いつもゴミ出しですれ違う近所の人と軽く会話するだけでも、いざという時に声をかけ合い、いっしょに行動がしやすくなるはずです。

古市さんは近所の見回り活動を通じて、周囲の人との関係の大切さに気づいたと言います。「子どもと地域の夜警に参加してみたんです。すると、まちの生き字引のようなおばあさんがいらして、防犯上気をつけた方がいい場所やご近所の小さな情報をたくさん教えてもらいました。こうしたコミュニケーションの積み重ねこそ、防災につながるのではないかと感じました」

災害から時間が経ち、被災地から遠い場所に住んでいると、日常で防災を意識するのは難しいかもしれません。でも、自分や家族のレジリエンスを認識し、地域の人たちとゆるやかにつながることは、個人レベルでできる最も身近な備えになるのではないでしょうか。そして、日々のちょっとした行動や心構えは、いざという時の「共助」につながるはず。これからみんなで「防災のアンテナ」をどう立てられるでしょうか


〈記事の話を聞いた人〉
三菱総合研究所 政策・経済センター 兼 社会インフラ事業本部
古市佐絵子
京都大学防災研究所を経て、入社。最近は個人にあった防災を考えるパーソナル防災、観光地における危機管理などを研究。家では子どもたちと新聞紙を燃料にご飯を炊いてみるなど、暮らしの中に楽しく防災を取り入れている。

公園で長男といっしょに

〈出典〉
※1 復興のカレンダー │ 復興の教科書 calendar-data.pdf
林春男[編](2005)阪神・淡路大震災からの生活復興2005生活復興調査結果報告書 p.62

企画・構成:グループ広報部、まる、エクスライト
取材・文:上條弥恵/エクスライト、乾隼人
編集:グループ広報部

この記事が参加している募集

記事を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。Facebookでは、おすすめのコラムやニュースリリース、Webセミナーなどをご紹介しています。ぜひ、ご覧ください。