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捨てたらごみ、めぐれば資源。プラスチックごみから考える「サーキュラーエコノミー」のこと

紙ストローやエコバック、マイボトルなどが当たり前に使われ、プラスチックごみを減らす意識と行動は、年々広がっています。また、リサイクルの習慣も身につき、プラスチックは「資源」と捉える人も多いのではないでしょうか。限りある資源を大切に使っていく社会とは、どのような姿か?いま注目の「サーキュラーエコノミー」について考えます。


プラスチックごみがもたらす影響とは?

ペットボトルやコンビニのお弁当容器など、毎日の身の回りにあふれるプラスチック製品。軽くて、さまざまな形に加工しやすく、私たちの生活に欠かせないものです。でも、新たにプラスチックを作り続ければ、原料となる石油資源はいつしか枯渇してしまいます

使い終わったプラスチックは「ごみ」として焼却されると、CO2が発生し、地球温暖化につながります。もちろん無造作に捨てれば、生き物への影響も。
 
プラスチックごみは、海に流れこむと生き物が誤って食べてしまうことがあります。海中をゆらゆら漂うレジ袋の写真や、ウミガメの鼻にストローが刺さった写真などを見たことがあるかもしれません。プラスチックは、自然界でほとんど分解されないため、焼却やリサイクルなどをしない限り、環境の中に残り続けているのです。

さらに、ごみが細かく砕けてマイクロプラスチックになると、魚や貝が取り込んだり、飲料水に混ざり込んだりする危険もあります。それらを口にすれば、人の体にも知らないうちにプラスチックが…。ある研究では、人間は1週間でクレジットカード1枚分(5g)の微小なプラスチックを摂取しているという結果(※1)も出ています。健康への具体的な影響はまだ解明されていませんが、いずれ影響が出るかもと心配されています。

「マテリサ」「ケミリサ」で、プラスチックを資源に変える

世界では人口増加にともない、プラスチックの生産量・使用量が増えています。当然、ごみの量も。日本で最も使用量が多いプラスチック製品は何だと思いますか?…答えは、食品トレーやラベルなどの容器包装。日常を振り返ると、「たしかに」と思いますね。実は、日本は容器包装由来のプラスチック廃棄量(一人あたり)がアメリカに次いで世界第2位(※2)となっています。衛生的で丁寧な包装が好まれている実情もありますが、その分、リサイクルや再利用を進めていく責任も大きいと言えます。

そもそも、プラスチックごみはどうリサイクルされているか。その方法は大きく3種類あります。

マテリアルリサイクル(マテリサ)
廃プラスチックを粉砕してごみなどを取り除き、溶かして再び形にすることで再利用。現在、主流となっている、ペットボトルからまたペットボトルを作る方法など。
ケミカルリサイクル(ケミリサ)
プラスチックを化学的に分解し、原料や分子レベルに戻して再利用。別の種類のプラスチックを作ることもできる。
エネルギーリカバリー
ごみとして焼却し、そのエネルギーを熱源や発電に利用。
 
最も多いのは、焼却するエネルギーリカバリーですが、プラスチック自体は無くなってしまいます。プラスチックが焼却される量を減らし、資源循環させるには「マテリサ」や「ケミリサ」をもっと増やしていく必要があります

マテリサとケミリサは、繰り返し循環させることが可能です。特にケミリサは、少し汚れたプラスチックや異なる種類のプラスチックが混ざっていても処理できる場合もあり、より多くのプラスチックを資源として活かせると期待されています。ただその一方で、技術が完全に確立するまでには時間がかかると言われています。
 
マテリサもケミリサも手間とコストがかかるため、プラスチックを扱う事業者も、現時点では積極的に進められないのが実情です。この課題を解決するには、どんな仕組みが必要でしょうか。

意外と身近かもしれない「サーキュラーエコノミー」

従来のリサイクルはごみをどう処理し、資源として回収するか?という取り組みでした。これからは「ごみは、なぜ発生するのか?」という部分に目を向け経済全体や社会の仕組みを変えていかなければなりません。この解決策として生まれたのが「サーキュラーエコノミー」という考え方です。

プラスチックに限らず、さまざまなモノや資源を循環利用しながら経済も回していく。これまでの大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済システムから脱却し、資源枯渇の心配が少ない、持続可能な社会を目指しますサーキュラーエコノミーは「製品の設計や製造の段階から資源をいかに回していくか」「企業や生活者がそのシステムに参加したくなるか」が勝負です。ポイントを簡単に説明します。

・リサイクルに手間とコストがかからない製品設計

リサイクルは、廃棄物を素材ごとに細かく分別する必要があり、複数の素材を組み合わせた製品を作るとリサイクルが難しくなります。最近は、使用後のリサイクルを前提とした製品が増え、なるべく同じ素材だけでモノを作る試みが広まってきています。

・生活者が資源の回収・循環に参加したくなる仕組み

日用品のリサイクルは、私たち生活者の協力が欠かせません。着なくなった服を店舗に持ちこめばクーポンがもらえるとか、同じような取り組みを目にする機会も増えていますね。

三菱総合研究所でサーキュラーエコノミーに取り組む細田幸佑さんは、神戸市とアミタが中心となって取り組む「MEGURU STATION」は好事例だと言います。

「町の施設や廃校などに資源回収ステーションを設置し、住民に分別した資源を持ち込んでもらうのですが、そこが地域のコミュニティにもなっているのです。交流スペースでお茶を飲んで話すこともできますし、不用品を持ち寄るリユース市や、地域の野菜やお菓子などを販売するマーケットも開催されているので、自然に人が集まる。環境に良いというだけでなく、新たな価値や人とのつながりを生み出している点でも素晴らしいケースです」

「新品を買って使うのが当たり前という意識ではなく、このような体験を通じて、中古品やリユース品を使うのもいいなという意識が芽生えることが重要です」

・事業者が「情報連携」できるマッチングツール

事業者間では、再生材の質と量、需要と供給をどう整理し回していくべきか?制度的な問題だけでなく、業界間の連携や商流を変えていく必要もあります。特に重要な課題の一つが、情報の連携です。

三菱総合研究所では、再生プラスチックの需要と供給のマッチングを促すツールを開発し、再生材の物性や由来・加工履歴などの共有に取り組んでいます。再生プラスチック供給事業者と利用事業者の「情報共有」の円滑化による、市場創出を目指します。

プロジェクトに関わった齋藤有美さんは話します。

「再生材は物性だけでなく、元々何に使われていたか、どのように加工されたか、どのような成分が配合されているかなどの細かな条件で、どの用途にリサイクルできるかが変わります。そのため、自社の用途や求める品質にマッチした再生材を見つけられない企業も少なくありません」

「こうしたマッチングツールが再生材の需要と供給のマッチングにかかるコストや効率の課題をクリアする助けとなり、適材適所で再生材の利用が促進されることを願っています」

循環とは一方通行ではない「つながり」をつくること

生活者一人ひとりの「買う」「捨てる」という行動が、社会に少なからず影響を与えます。会計時に過剰包装は断る。再利用や詰め替えできる商品を選ぶ。捨てる時は地域のルールに従って正しく分別する。これら生活者の行動は「メッセージ」であり、それにより、環境やサステナビリティに配慮する企業の努力も報われます

「まずは、身の回りの商品がどのように作られ、使用後にどうなるかを知ることが大切です。多くの企業が環境負荷を減らすためにさまざまな努力をしていますが、その取り組みが消費者に十分に伝わっていないことが多い。例えば、再生材やバイオマス由来の資源を使った商品メーカーが修理して安く販売するリファービッシュ品など…。こうした取り組みに興味を持つことが、企業にとって大きな後押しとなります」(細田さん)
 
「ひとりの意識や行動は、他の人にも広がっていくと思います。私自身が学生の頃から環境の分野に関心を持って活動してきたので、家族や友人もごみの分別に気をつけてくれたり資源循環に関するニュースに注目したり、日頃から意識を向けてくれるようになりました。身近な人からコツコツと広げていくことが大切なのでは」(齋藤さん)
 
企業と生活者の意識や行動がつながり、今の時代にふさわしい価値を創造していく。サーキュラーエコノミーがどう発展していくか、答えを出すのは私たちかもしれません。


〈記事の話を聞いた人〉
三菱総合研究所 エネルギー・サステナビリティ事業本部
細田幸佑
大学時代から資源問題に興味を持ち、家電のリサイクル技術などを研究。入社後は資源循環に関するルール策定や課題調査、戦略づくりなどに従事。生き物が好きだったことが、資源に興味を持ったきっかけ。
 
齋藤有美
資源リサイクルに関する政策動向の調査、制度設計の支援などを担当。プラスチックの資源循環は大学時代から注力してきたテーマの一つ。子どもの頃から地元のエコクラブで、環境問題を身近に感じてきた。

〈出典〉
※1 Wit, W. J. de and Nathan Bigaud. “No plastic in nature: assessing plastic ingestion from nature to people.” (2019). PLASTIC-IGESTION-WEB-SPRDS.pdf (yourplasticdiet.org)
※2 国連環境計画「Single-Use Plastic:A Roadmap for Sustainability」(2018年6月)

企画・構成:グループ広報部、CEKAI、まる、エクスライト
取材・文:上條弥恵/エクスライト、池田鉄平
編集:グループ広報部

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