見出し画像

人と違う経験が「強み」に変わる。アスリートのセカンドキャリアから考える、ユニーク人材の活躍

2024年、パリオリンピックで輝きを放ったアスリートたち。たくさんの人の記憶に感動を刻み、大会は幕を閉じました。一方で、多くのアスリートは若いうちに競技生活を終え、次のキャリアへ歩みだします。転職やリスキリングが当たり前になりつつある今、この悩みはすべての人に通じる問題です。積み重ねてきた経験やスキルを活かすために、これから必要なことは何でしょうか?


引退したアスリートが悩むキャリアの選択肢

競技生活を終えたアスリートは、どのようなキャリアを歩むのでしょう?スター選手であれば、タレントや解説者としてメディアで見ることもありますよね。監督やコーチなど、指導者になる人もいます。でも、こうした道を選ぶことができるアスリートはごく一部。次のキャリアの選択肢をイメージできず、引退後に悩む人はたくさんいます

競技の人気や知名度でも違いがありそうです。サッカーや野球などの人気スポーツは指導者になる機会も多そうですが、競技人口の少ないスポーツでは、その機会やポストは限られます。それぞれに経験やスキルがあるのに、競技で身につけた「強み」を活かす選択肢に差が出てしまっています

こうした環境が生まれる背景の一つが、競技力の養成と職業教育の分断です。競技で培った力をどのような職業に活かせるのか?自分に何ができ、どんな選択肢があるのか分からないということも…。先輩や家族に相談することはできても、専門的なキャリア支援を受けられる機会は限られているのが現状です。
 
海外にも同じような問題は存在しますが、欧米では、競技でプロを目指しながら大学で学位を取る人たちや、子どもの頃に一つの競技に絞らず、視野を広げておく考え方もあるようです。スポーツに限らず、将来の選択肢を具体的にイメージするための教育、文化はとても重要です

アスリートの「強み」を活かせる意外な職業

アスリートは目標を達成するために努力を重ね、プレッシャーの中で最高のパフォーマンスを発揮することを目指します。その中で「自己管理能力」「目標設定能力」、団体競技なら「チームワーク」「リーダーシップ」などを自然と身につけていきます。これらは、ビジネスの世界でも高く評価される力です。
 
例えば、ITエンジニアはアスリートの経験が活かせると言われている職業の一つ。ちょっと意外なマッチングですが、アスリートが目標を決め、逆算して練習メニューを組み立て、コツコツと継続するという行動様式は、まさにITエンジニアにも求められる資質です。社会のデジタル化が進み、優秀なエンジニアはもちろん、創造性を身につけた人材を求める企業は今後も増えていくはずです。
 
戦術を論理的に考える力を活かしてコンサルタントに転職した方や、SNSでファンを獲得してきた経験を活かし、SNS運用の企業を立ち上げた方もいます。培ってきた経験やスキルを可視化し、共有することで、セカンドキャリアの選択肢は具体化していきます

「ユニーク人材」が持つ潜在的な力

三菱総合研究所では、学校を卒業して企業に就職する一般的なキャリアパスと異なる経験を持つ人たちを「ユニーク人材」と位置づけています。アスリートが象徴的な例ですが、創作活動をするアーティスト、パフォーマンスをする演者、家事や育児に専念する主婦、独自の趣味に生きる人など、企業では得がたい行動力や影響力を持っている人たちです。こうしたユニーク人材は、国内に約700万人いるという試算(※1)もあります。
 
企業の人材不足を解決するには、多様な人材が幅広く活躍できる仕組みづくりが重要です。ダイバーシティの推進は、イノベーションの創出も期待できます。そのためには社会全体で、ユニーク人材の潜在的な力を可視化していくことが重要です。

さて、現状はどうでしょうか。ユニーク人材の採用で、企業側の課題に挙がるのが「前例がない」ことへの不安です。アスリートやアーティストなど、過去に採用実績のない人材とどのように接し、どう支援していけばよいのか、戸惑う企業担当者は少なくありません。
 
入社後の育成も課題の一つ。ビジネス経験が少ない人の場合、基礎的なスキルから専門知識まで身につけるべきことはさまざまです。しかし、多くの企業では、ユニーク人材を受け入れるためのプログラムやサポート体制が不足しています。既存の評価制度に当てはめにくい場合もあるので、人材の貢献度や処遇をうまく評価できる体制も必要です。

ユニーク人材の活躍は、キャリアの可能性を拡げる

ユニーク人材が幅広く活躍する社会をつくるには、どのような取り組みが必要でしょうか。
 
三菱総合研究所では、キャリア形成に課題をもつ現役・引退アスリートと、人材を求める企業・自治体のマッチングをめざす「アスリートFLAP支援サービス」を展開しています。アスリートの潜在的な力を可視化し、企業や自治体などの採用ニーズと照らし合わせていく仕組みです。アスリートは怪我などで突然、引退のタイミングがくることもあるので、現役時代から幅広い視野を持ち、次の準備をしていける場所にできたらと思います。

自分のキャリアを形成するヒントになるのが、「FLAPサイクル」という概念(※2)。Find(知る)、Learn(学ぶ)、Act(行動する)、Perform(活躍する)のステップを繰り返し、自分に合ったキャリアを築いていきます。中でも特に大切なのがFind、自分の適性とともに職業の特性を知ることです。強みを言語化できれば、これまでと違う新しい選択肢も見えてきます

アスリートは、自分と向き合う「内省力」が身についています。競技のようなストイックな場面だけでなく、繰り返し同じことに取り組んできた人には、自然と備わっている大切な力かもしれません。これは、私たち一人ひとりにも言えそうです。自分をあらためて掘り下げ、キャリアの特性と照らし合わせれば、思わぬ可能性が見つかるのではないでしょうか。

ユニーク人材の活躍は、子どもたちの将来の選択肢も広げてくれます。子どもがスポーツや音楽などに夢中になるのは素晴らしいことですが、親は「スポーツばかりやっていて大丈夫だろうか?」「手堅い職業を目指してほしいな」と心配になることもあると思います。でも、そこで培った経験やスキルが個性となり、その強みを幅広い分野で活かせると分かれば、その考え方も変わるのではないでしょうか。

強みの言語化とともに、必要なのが教育的な支援。キャリアの選択肢をイメージしづらい人たちの相談先が増え、異なる分野に挑戦して活躍するロールモデルを増やすことで、人材やキャリアの可能性が広く社会に認識されればと思います。


〈記事の話を聞いた人〉
三菱総合研究所 人材・キャリア事業本部
小林学人

大学卒業後、人材サービス企業へ。「人手不足や組織のイノベーション創出などの課題解決のため、一般とは異なるキャリアを歩んだ人々が持つ強みに着目している」という考えに共感し、三菱総合研究所へ入社。アスリート支援事業の立ち上げから参加。趣味はサウナとマラソン。

〈出典〉
※1 平成27年国勢調査、2019年労働力調査、2019年内閣官房「フリーランス調査」等よりMRI推計
※2 第5章 日本の労働市場を活性化するFLAPサイクル (mri.co.jp)

企画・構成:グループ広報部、CEKAI、まる、エクスライト
取材・文:上條弥恵/エクスライト、末吉陽子
編集:グループ広報部

この記事が参加している募集